不動産の鑑定評価をご依頼いただく場合には、お客さまに「依頼書兼承諾書」というタイトルの書面(所定の様式)に署名捺印いただき、これに当方の承諾の証としての署名捺印を加えたものを契約書として取扱っております。
この契約書面が印紙税法の課税文書に当たるのか、つまり収入印紙を貼る必要があるのか否かが問題となることがありますが、この疑問に対する回答は国税庁より示されていますのでご紹介します。
結論だけ先にお伝えしますと、印紙税法の課税文書には該当せず、収入印紙は不要とのことです。国税庁のHPから解説文を以下に引用しますので、興味のある方はご覧ください。
(平成22年2月17日/東京国税局)
不動産鑑定業者が行う価格等調査業務の「依頼書兼承諾書」に係る印紙税の取扱いについて(照会)
別紙1-1 照会の趣旨
社団法人日本不動産鑑定協会では、平成21年8月に国土交通省が「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン」を策定したことを受けて、不動産鑑定士(以下「鑑定士」といいます。)が行う価格等調査業務(以下「本件業務」といいます。)に関し、当該鑑定士が所属する不動産鑑定業者(以下「鑑定業者」といいます。)と委託者との間で交わす契約書面のひな形として「価格等調査業務依頼書兼承諾書(PDF/33KB)」(別添1参照)(以下「本件承諾書」といいます。)と併せて「価格等調査業務標準委託約款(PDF/95KB)」(別添2参照)(以下「約款」といいます。)を定めました。
印紙税法別表第一《課税物件表》には、第2号文書として請負に関する契約書が掲名されているところ、本件承諾書は、契約書に該当する文書ですが、本件業務は、鑑定評価基準にのっとった鑑定評価と、鑑定評価基準にのっとらない価格等の調査とに分けられ、いずれも「不動産の鑑定評価に関する法律」(以下「鑑定法」といいます。)第3条第1項の業務(鑑定評価業務)又は同条第2項の業務(いわゆる隣接・周辺業務)として行う不動産の価格又は賃料を文書等に表示する調査業務であることから、本件業務の委託は民法上の「委任」に当たるものと解され、本件承諾書は第2号文書《請負に関する契約書》には該当せず、また、印紙税法別表第一に掲げる他のいずれの文書にも該当しないことから、印紙税法の課税文書には当たらないと解して差し支えないか照会いたします。
別紙1-2 照会に係る取引等の事実関係
不動産の鑑定評価については、鑑定法第2条第1項《定義》において、「不動産の鑑定評価とは、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう」とされており、また、同法第3条第1項《不動産鑑定士の業務》では、「不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価を行う」とされているところ、鑑定士の独占業務として、不動産鑑定評価基準(平成14年7月3日国土交通省事務次官通知、最終改正平成21年8月28日)に準拠して行われるものです。
また、同条第2項では、「不動産鑑定士は、不動産鑑定士の名称を用いて、不動産の客観的価値に作用する諸要因に関して調査若しくは分析を行い、又は不動産の利用、取引若しくは投資に関する相談に応じることを業とすることができる」こととされており、精度の高い鑑定評価に加えて詳細な物件調査、市場分析、不動産取引等に関するコンサルティング等を鑑定士に求めるもので、鑑定評価の隣接・周辺の業務として鑑定士の業務とされています。
別紙1-3 事実関係に対して照会者の求める見解となることの理由
印紙税法上の「請負」とは、民法第632条に規定する請負をいい、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」契約であり、完成すべき仕事の結果の有形、無形を問わないものとされています(印紙税法基本通達別表第一第2号文書1)。また、請負は、完成された仕事の結果を目的とする点に特質があり、その仕事を完成させなければ、原則として債務不履行責任を負うことになるものと考えられます。
他方、「委任」とは、「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力が生ずる」契約であり(民法第643条)、法律行為でない事務の委託である準委任は、委任に関する規定を準用するものとされています(民法第656条)。
委任は、一定の目的に従って事務を処理すること自体を目的とし、必ずしも仕事の完成を目的としないものであり、また、受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負うこととなりますが(民法第644条)、受任者にはある程度の自由裁量が認められており、事務処理をする過程が重視されているものといえます。そして、一般的に委託者が受託者の専門的知識、経験、技術等を信頼して何らかの事務処理を委託することは、委任契約に当たると解されています。
本件承諾書は、委託者が本件業務の委託を申し込む旨を記載した部分と、その申込みに対して鑑定業者が応諾する旨を記載する部分からなっており、鑑定業者が、委託者からの申込みに対して応諾した旨を約して委託者に交付する文書であることから、契約当事者間における意思の合致、すなわち契約の成立を証する目的で作成される文書として契約書に該当します。ところで、本件業務は、鑑定評価書等の成果報告書を交付することにより完了するとされていることから(約款第10条)、同業務の目的は、当該鑑定評価書等の作成という仕事の完成であるのか疑義が生じるところですが、本件業務である不動産の鑑定評価は、鑑定法第2条第1項に「不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう」と定められており、契約時においてあらかじめ鑑定評価額が特定されているものではなく、専門家としての鑑定士の鑑定評価によって初めて不動産の適正な価格を判定し、その結果を表示することが可能となるものです。また、隣接・周辺業務についても、鑑定士の持つ高い専門性を期待した業務であるものと解されます。
このように、委託者は、鑑定士の専門的知識、経験、技術等を信頼し、それらに裏打ちされた適正な手法による不動産の価格等の調査が行われることを期待して本件業務を鑑定業者に委託するものであって、本件業務を遂行するための方法、内容等がその鑑定士の持つ専門性に委ねられていることからすれば、鑑定士には、ある程度の自由裁量が認められていると解されることから、本件業務は、不動産の適正な価格等を調査するという事務処理の過程が重視されているものと考えられます。
また、鑑定業者は、原則として依頼者に対して鑑定評価額その他国土交通省で定める事項を記載した鑑定評価書を交付しなければならないと規定されており(鑑定法第39条)、鑑定評価書の交付は、鑑定評価業務の一環として交付されるものであって、鑑定業者の義務であると解されていることからすると、鑑定評価書の完成そのものに対して報酬を支払うものとはいえません。
したがって、本件業務は、仕事の結果、すなわち鑑定評価額があらかじめ特定されている性質のものではなく、不動産の適正な価格等の調査という事務処理を委託することを目的とするものですので、民法上の委任契約に該当するものと考えられ、本件承諾書は、印紙税法別表第一《課税物件表》に掲げる第2号文書《請負に関する契約書》に当たらず、また、同法別表第一《課税物件表》に掲げる他のいずれの文書にも該当しないことから、印紙税の課税文書には当たらないと考えます。
(国税庁HPより引用・抜粋)