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不動産鑑定評価基準/運用上の留意事項

※アンダーラインを付した箇所は運用上の留意事項より抜粋

赤字の箇所は補足説明

060-総論第7章第2節賃料を求める鑑定評価の手法/継続賃料②

第7章鑑定評価の方式

(第2節つづき)

2 利回り法

(1)意義

利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

試算賃料=基礎価格×継続賃料利回り+必要諸経費等

(2)適用方法

①基礎価格及び必要諸経費等の求め方については、積算法に準ずるものとする。

②継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。

基礎価格変動程度賃料の遅行性、保守性に留意

・利回り法は、元本である価格と果実である賃料の相関関係を示す利回りを時系列的に捉える手法である。ただし、基礎価格の変動と賃料の変動は賃料の遅行性等によりパラレルではないことが一般的であり、元本と果実の相関関係が希薄な地域においては、利回り法を適用することが困難な場合もあるので、留意が必要である。

・継続賃料利回りの査定については、不動産鑑定士の裁量による部分が大きく、利回りの判断に差が出やすいため、鑑定評価においてはその判断根拠を明確に示す必要がある。

・継続賃料利回りについては、直近合意時点の純賃料利回りをそのまま採用すると利回り法の計算式は基礎価格の変動率をスライド法の変動率として適用した場合の計算式と同じものとなり、基礎価格変動率分がそのまま反映された賃料が求められてしまうこととなる。

・基準では、継続賃料利回りは、直近合意時点の純賃料利回りを踏まえて、継続賃料固有の価格形成要因に留意し、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとされており、事情変更の要因を基礎価格の変動のみによって捉えるのではないことが明確に示されている。

3 スライド法

(1)意義

スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

なお、直近合意時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応する適切な変動率が求められる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として直接求めることができるものとする。(必要諸経費等の加算不要)

試算賃料=現行純賃料×変動率+必要諸経費等

※試算賃料=現行実際実質(支払)賃料×即応適切な変動率

(2)適用方法

①変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地又は建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求めるものとする。

一般的要因分析賃料の遅行性、保守性に留意

②必要諸経費等の求め方は、積算法に準ずるものとする。

・スライド法は、直近合意時点における賃料に基づき求められた純賃料に経済情勢等の変化に即応した変動率を乗じて純賃料相当額を求め、これに必要諸経費等を加算して求める手法である。また、実務上、必要諸経費等を含む支払賃料に即応した適切な変動率が把握される場合は、当該賃料にその変動率を乗じて支払賃料を直接求めることもできる。

・前記のとおり、平成26 年改正において継続賃料評価の一般的留意事項に基づき、継続賃料の評価手法の位置づけの再検討がなされ、継続賃料は、基本的には現行賃料と新規賃料の間で決定されること、鑑定評価に当たっては、最高裁判例の判断枠組みを前提に「事情変更に係る要因」と「諸般の事情に係る要因」を考慮する。スライド法についても、この考え方に基づいて継続賃料固有の価格形成要因に留意して手法の適用を行うものである。

・スライド法の計算式「純賃料×変動率+価格時点の必要諸経費等」は、平成26 年改正前の基準と基本的には変わらないものの、変動率の査定に当たって継続賃料固有の価格形成要因である「事情変更に係る要因」と「諸般の事情に係る要因」に留意することで、他の手法との平仄を合わせることになる。

しかし、現実的には、諸般の事情に係る要因に基づく修正を行うことは、実務上、困難となる場合も多いと考えられる。この場合においては、スライド法の適用過程での考慮が困難であることを鑑定評価書に明記した上で諸般の事情に係る要因の反映の程度を試算賃料の調整において考慮し、試算賃料の調整及び鑑定評価額の決定段階において、当手法の説得力に係る判断を行うことも認められる。

・変動率を求める場合に各種指数や整備された不動産インデックス(賃料指数、市街地価格指数、建物価格指数等)等を採用する場合には、地代と家賃の別、用途別、地域別、典型的な需要者の行動及び継続賃料固有の価格形成要因に留意し、対象不動産の性格及び各種指数や整備された不動産インデックス等の特性を総合的に考慮する必要がある。

4 賃貸事例比較法

賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手法である。

→契約内容類似性 

試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行うことに留意しなければならない。

・賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める方法であるが、継続賃料固有の価格形成要因についての考慮が十分に行われずに試算賃料を求めると、不適切な賃貸事例の選択や要因比較がなされたり、不動産鑑定士の裁量によって試算賃料が大きく異なったりすることとなるおそれがある。

このため、賃貸事例比較法の適用においても、継続賃料固有の価格形成要因である直近合意時点から価格時点までの事情変更及び諸般の事情の双方を考慮して、各評価手法の平仄が合っているようにすることが必要である。

・賃貸事例の選択要件としては、継続賃料の固有の価格形成要因との類似性が求められる。しかし、サブリースやオーダーメイド賃貸に係る継続賃料評価のように、継続賃料固有の価格形成要因の類似性を厳格に求めることは困難な場合が多い。鑑定実務では、継続賃料に係る賃貸事例比較法は、賃貸事例の収集・選択が困難であることを理由に、安易に手法の適用が断念され、軽視される傾向がみられる。賃貸事例の収集は継続賃料水準の把握、継続賃料の変動率の把握等、継続賃料の市場を分析するためには必要であり、また、「事情変更に係る要因」の実証的な分析の基礎となることから、安易に手法の適用が断念されないよう留意する必要がある。

・賃貸事例比較法の適用に際して、継続賃料固有の価格形成要因の厳格な類似性が認められる賃貸事例が収集できない場合は、当該要因の比較によって適切に補正することが可能である賃貸事例をもってそれに代替することや、試算賃料の調整及び鑑定評価額の決定の段階において当該手法の説得力に係る判断を踏まえることが必要である。

つづき→不動産鑑定評価基準総論第8章前文~第1節鑑定評価の基本的事項の確定はこちらへ

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