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不動産専門家相談センター東京
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第7章/鑑定評価の方式
(第2節つづき)
賃料増減請求権とは
賃料増減請求権(借地借家法第11 条第1 項(地代)、同法第32 条第1 項(家賃))とは、継続中の借地契約・借家契約において、一方の当事者が他方に対して、地代・家賃の改定を請求することができるという権利(形成権)であり、強行法規と解釈されている。
□地代等増減請求権(借地借家法第11 条第1 項)
借地借家法は、建物を所有する目的のための土地の利用や建物の利用の安定を図ることを目的としており、対象となる土地利用は、建物の所有を目的とするものに限られる。
第11 条第1 項による賃料増減請求についても、建物の所有を目的としている土地に対する地代を対象としていることに留意する必要がある。
下級審判例ではゴルフ場のコースの賃貸借のように、必ずしも建物の所有を目的としていない場合においても、当該増減請求権の類推適用を認めた例(神戸地裁昭和57 年1 月29 日判例タイムズ473 号198 頁では、借地法の適用のないゴルフ場用地の賃貸借について、賃料増額請求権を認めた。)もあるが、最高裁(最高裁判例平成25 年1 月22 日判例タイムズ1388 号105 頁では、地上権設定契約及び土地賃貸借契約において、ゴルフ場経営を目的とすることが定められているにすぎず、当該土地が建物の所有と関連するような態様で使用されていることもうかがわれないという事実関係の下においては、借地借家法第11 条の類推適用をする余地はないとした。)は、類推適用に対して極めて限定的に解釈していることに留意する必要がある。
借地借家法第11 条第1 項(地代等増減請求権)→
地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
□借賃増減請求権(借地借家法第32 条第1 項)
借地借家法第32 条は、建物賃貸借契約に借地借家法第38 条第7 項の賃料特約が設定されている場合及び借地借家法第40 条の一時使用目的の建物の賃貸借の場合には、その適用がないことに留意する必要がある。
借地借家法第32 条第1 項(借賃増減請求権)→
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
□継続賃料の鑑定評価
借地借家法第11 条及び第32 条の賃料増減請求に係る最高裁の判断枠組みを要約すると下記のとおりである。
借地借家法第11 条第1 項、第32 条第1 項は、土地又は建物の賃貸借契約が長期間に及ぶことが多いため、事情変更に応じて不相当になった賃料を調整し、当事者の公平を図ることを目的としたものであるから、同項に基づく賃料増減請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(直近合意賃料)を基にして、それ以降の同項所定の経済事情の変動等のほか、賃貸借契約の締結経緯、契約内容等の賃料額決定の要素とした事情等の諸般の事情を総合的に考慮すべきである。
最高裁判例の判断枠組みを鑑定評価の体系に捉えなおすと、まず、継続賃料固有の価格形成要因として、時間軸により、直近合意時点から価格時点までの間の変動要因(以下「事情変更に係る要因」という。)と、直近合意時点における賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容の要因(以下「諸般の事情に係る要因」という。)の2 つの概念に整理することができる。
「事情変更に係る要因」は、賃料の価格形成要因のうち直近合意時点から価格時点までに変動した要因であり経済的要因等が含まれる。なお、「諸般の事情に係る要因」であっても、直近合意時点から価格時点までに変動した要因は「事情変更に係る要因」に下「事情変更に係る要因」という。)と、直近合意時点における賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容の要因(以下「諸般の事情に係る要因」という。)の2 つの概念に整理することができる。
「事情変更に係る要因」は、賃料の価格形成要因のうち直近合意時点から価格時点までに変動した要因であり経済的要因等が含まれる。なお、「諸般の事情に係る要因」であっても、直近合意時点から価格時点までに変動した要因は「事情変更に係る要因」に含まれる点に注意が必要である。「事情変更に係る要因」については、直近合意時点及び価格時点に着目し、直近合意時点から価格時点の期間において、動態的なものとして捉える必要がある。
「事情変更に係る要因」は、経済的事由に係るものとそれ以外のものに大別される。「一般的要因」「地域要因」「個別的要因」という一般的な価格形成要因の区分との対比で捉えると、判例にみられる経済的事由に係るものとしては、一般的要因、地域要因としてあげられる地価水準及び周辺賃料水準の変動や、個別的要因に該当する建物価格の変動、対象不動産の公租公課の変動等があり、経済的事由以外のものとしては、個別的要因に該当する契約内容の変更等がある。
また、「諸般の事情に係る要因」は、個別的要因に該当する。
このように、継続賃料に係る価格形成要因は、一般的な区分と異なり、継続賃料固有の価格形成要因区分として把握する必要があるので留意が必要である。
継続賃料評価の一般的留意事項
相当賃料に係る最高裁の判断枠組みを踏まえつつ、継続賃料の評価に係る一般的な留意事項を整理すると、次のとおりである。
・賃料増減請求権
原則として、借地借家法の適用がある場合(類推適用可能な場合を含む。)に賃料増減額請求が認められるので、法に裏付けられた権利として継続賃料の鑑定評価が可能であること。
・契約の拘束力
契約締結時や賃料改定時に、賃料相場等と無関係に当事者が自由に賃料を決めることは契約自由の原則、私的自治の原則から認められるものであり、契約締結時や賃料改定時の賃料が不相当であることに対して、借地借家法は介入できないこと。
・事情変更
直近合意時点以降に、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動により事情変更(直近合意時点の賃料が不相当となった場合)が生じている場合に、借地借家法に基づく賃料増減請求が可能となること。
なお、継続賃料の鑑定評価を行う場合、事情変更の有無は、鑑定評価の手順を尽くして初めて把握することが可能であり、その結果、事情変更が生じていないと判断することができる場合、継続賃料の鑑定評価を行うことの是非が問題となる。継続賃料の鑑定評価は、事情変更が生じている場合以外に、逆に事情変更が生じていないとすることを明らかにすることも有意義な鑑定評価であることから、賃料増減請求の行使とは異なり、事情変更がないことを証明する鑑定評価も行うことが可能である。
・諸般の事情
現行賃料の増減額については、上記以外に、賃貸借等の契約締結の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容の要因を総合的に考慮すること。
・公平の原則
現行賃料の増減については、上記を総合的に考慮すると、現行賃料で賃貸借等の当事者間を拘束することが公平に反する場合に行われること。また、継続賃料は、契約当事者間の公平を考慮すると、原則、現行賃料と正常賃料の間で決定されること。
以上、留意点については5 点に集約された。賃料増減請求権及び契約の拘束力については法的内容であるが、継続賃料の鑑定評価は賃貸借契約等の法律関係が出発点となるため基本的な前提として理解しておく必要がある。その他については鑑定評価の視点から特に留意すべき事項となる。
継続賃料の鑑定評価の妥当性に係る留意点
継続賃料は、「不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料」(基準総論第5章第3節Ⅱ3.)と定義されている。この賃貸借等については、基準では、正常賃料の定義において「賃借権若しくは地上権又は地役権に基づき、不動産を使用し、又は収益することをいう」(基準総論第5章第3節Ⅱ1.)と説明されている。
賃貸借等を分類すると下記のとおりに例示することができるが、これは借地借家法の適用がある場合に限定されているものではない。
建物所有を目的とする土地の賃借権・地上権
① 普通借地権、②定期借地権、③一時使用目的の借地権
建物所有を目的としない土地の賃貸借・地上権
・青空駐車場、資材置き場などの建物所有を目的としない賃貸借
・ゴルフ場の土地の賃貸借(旧借地法第12 条の類推適用した判例もあるが、最高裁判例は借地借家法第11 条の類推適用を否定している)
・構築物(トンネル、橋など)所有目的の区分地上権(一時金一括払いが多い)
地役権
・通行地役権、引水地役権など(地役権の場合、一時金一括払いもある)
なお、通行地役権の場合、通行料(年払いが多い)を支払う場合もみられる。(通行料の増減請求の判例はみあたらない。)
建物の賃貸借
(借地借家法が適用される場合)
・建物の賃貸借の場合、一般的に借地借家法が適用される。
・建物とは、社会通念、借家法の趣旨等に照らし、障壁その他によって他の部分と区画され、独占的排他的支配が可能な構造、規模を有するか否かにより判断される(大阪高裁昭和53 年5 月30 日)。
・建物というためには土地との定着性が必要であり、基礎があることが前提となる(大阪高裁昭和53 年5 月30 日)。
・養鰻ハウスは、耐久性、永続性があり、登記ができないとしても旧借家法の保護を与えるのが相当とした判例(東京高裁平成9 年1 月30 日)がある。
(借地借家法が適用されない場合)
・商業施設内のケース貸しは、独占的排他的支配がないため、建物の賃貸借とはいえないとする判例があり、区画及び営業上の独立性を必要としている。(最高裁判例昭和30 年2 月18 日民集9 巻179 頁、大阪地裁昭和44 年7 月17 日判例タイムズ239 号251 頁、東京地裁平成20 年6 月30 日判例時報2020 号86 頁など)なお、ケース貸しとは、商業施設内の売場の一部の区画を無隔壁で賃貸する場合を一般にいい、仕入れや支出についても賃貸人(商業施設運営者)の支配下に置かれるものが多い。
・賃料が必要諸経費より低く、賃貸借の有償性が問題となるものとして、社宅、宿舎の賃貸借関係(東京高裁昭和34 年5 月13 日などは、建物の維持管理費程度であると賃貸借を否定)がある。
継続賃料の鑑定評価に当たっては、下記①~③に分類される観点に留意が必要である。
①借地借家法第11 条、同第32 条等の賃料増減請求権の適用がある場合
法に裏付けられた権利として、継続賃料の鑑定評価は可能である。この場合、継続賃料と借地借家法上の相当賃料とは、鑑定評価上、同義・同概念として取扱う。
②賃貸借契約等に賃料改定特約等がある場合
借地借家法第11 条、同第32 条の適用がない賃貸借等であっても、契約当事者間に事情変更に伴う賃料改定特約が約定されている場合のほか、継続賃料評価により賃貸借等の当事者間で賃料増減の検討について合意がなされている場合では、賃料増減請求権を類推適用して継続賃料の鑑定評価を行うことが可能である。このように、賃料増減請求権を類推適用することにより継続賃料の鑑定評価を行う場合には、慎重な対応(前掲脚注57 のとおり。)が必要となる。
③借地借家法第11 条、同第32 条等の適用又は類推適用がなく、かつ、契約当事者間に賃料改定の合意がない場合
例えば、借地借家法第38 条の定期建物賃貸借契約がなされ、かつ、同条第7 項の賃料特約が設定されている場合は、借地借家法第32 条の適用が排除されている。このような場合、継続賃料の鑑定評価を行うための法的な請求権は認められず、実現性の観点から、賃料増減請求権を前提とした想定上の条件の設定は困難であると考えられる。このような場合、不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査=コンサルティングとしての対応が適切である。
事情変更がない場合における継続賃料の鑑定評価
賃料増減請求権の行使は、事情変更を前提としている。しかし、継続賃料の鑑定評価は、あくまで鑑定評価額(継続賃料)に対する専門家としての意見を依頼者等に表明するものであり、継続賃料固有の価格形成要因等の分析、鑑定評価手法の適用、試算賃料の調整、鑑定評価額の決定の一連の鑑定評価の手順を踏まえて、はじめて可能となる。
事情変更の有無は、鑑定評価を行うための前提条件ではなく、事情変更が生じていないことが結果として現行賃料と同額となるなどの形で示されるにすぎない。また、賃貸借当事者の一方からは事情変更が生じていないために賃料増減請求が行使できないことを説明するための鑑定評価のニーズも認められる。
基準においても、継続賃料を求める場合の一般的留意事項(基準総論第7章第2節Ⅰ4.)の記載は、事情変更がある場合のみに限定しているものとはしておらず、現行賃料と同額の継続賃料も認められる内容としている。事情変更がない場合についても、継続賃料の鑑定評価の範囲内と解釈することが妥当である。
借地借家法第11 条、同第32 条の適用がない賃貸借等の場合、継続賃料の鑑定評価を行うためには、賃料改定特約や賃貸借等の当事者間の賃料改定に係る合意などの確認が必要である。
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