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不動産鑑定評価基準/運用上の留意事項

086-各論第1章価格に関する鑑定評価第1節土地⑥ 借地権(ⅲ)

各論

第1章 価格に関する鑑定評価

(第1節のつづき)

(1)借地権

→借地権者帰属経済的利益貨幣額表示したもの=長期占有独占使用収益安定的利益+借り得取引対象部分等

□借地権とは、「借地借家法(廃止前の借地法を含む。)に基づく借地権(建物の所有を目的とする地上権又は賃借権)をいう。」と定義されている。したがって、建物以外の工作物又は竹木等を所有するため他人の土地を使用する権利及び使用貸借契約に基づいて土地を使用する権利は借地権から除かれている。

□借地借家法は、借地法を廃止(附則第2 条(建物保護に関する法律等の廃止))し、法定更新制度を認める普通借地権についてそのルールを定め、更新がない定期借地権制度を新たに創設した。しかし、附則第4 条(経過措置の原則)で「この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。」としながらも、「ただし、附則第2 条の規定による廃止前の建物保護に関する法律、借地法及び借家法の規定により生じた効力を妨げない。」とし、附則第5 条以降において「なお、従前の例による」として、旧法の条文が適用される借地権の存在を認めている。

このほか、借地借家法第25 条に基づき、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合に、借地借家法の規定の一部が適用されない一時使用目的の借地権がある。 

①借地権の価格

借地権の価格は、借地借家法廃止前の借地法を含む。)に基づき土地を使用収益することにより借地権者帰属する経済的利益一時金の授受に基づくものを含む。)貨幣額で表示したものである。

借地権者に帰属する経済的利益とは、土地を使用収益することによる広範な諸利益を基礎とするものであるが、特に次に掲げるものが中心となる。 

→借地人帰属経済的利益中心事項→長期独占使用収益安定的利益+借り得慣行的取引対象部分

ア 土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益法的側面における利益

イ 借地権の付着している宅地の(契約による制約下での)経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下「賃料差額」という。※借地人の借り得部分及びその乖離が持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分

→(慣行的取引対象)賃料差額還元価格→経済的側面における利益

□借地権は、法的側面からみると、借地借家法(廃止前の借地法を含む。)によって、最低存続期間が保証され、定期借地権等を除き、契約期間が経過しても借地権設定者に更新拒絶のための正当事由がない限り借地契約は更新され、第三者への譲渡の可能性もあり、契約期間内において建物の建替えの可能性も有し、建物買取請求権を有する等、借地権の強化、安定化が図られている。また、経済的側面からみると、土地の効用の増大、利用価値の増大に伴う地価の上昇に対し、一般に、地代が低廉であることから、借地権者に帰属する経済的利益が発生していることが認められる。

借地権の価格は、この借地権者に帰属する経済的利益に着目した市場参加者が多数現れ(有効需要)、市場において借地権の売買が一般化し、慣行化していくことによって形成され、その市場価値を貨幣額をもって表示したものである。また、地代の低廉化は、地代に代わる一時金(権利金、保証金、敷金、更新料、譲渡承諾料等)の授受の慣行を発生させ、このことが借地関係を一層複雑にしている。したがって、借地権の鑑定評価においては、地代、一時金及びこれらの借地権価格との関連性に留意すべきである。

「借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料」とは、当該宅地を一定期間使用収益するための正常賃料相当額を意味するものであるが、借地条件により当該宅地の使用収益が制約されている場合には、その制約条件下における宅地の経済価値に即応した適正な賃料をいうものである。

・乖離持続期間が長いほど借地権価格は大きくなる。

・経済的利益のうち市場で慣行的に取引対象となっている部分が借地権価格となるのであるから、経済的利益(乖離)の全部が取引対象とならず、その一部だけが取引対象となる場合は、その経済的利益の一部が借地権価格となる。要するに、市場取引(売買)の対象とならなければ、借地権の持つ経済価値が借地権の価格として顕在化しないわけである。

・借地権の借り得部分は、更地としての価格(市場価値)に即応する正常実質賃料と実際支払賃料との乖離に対応する経済的利益ではなく、賃貸借契約の制約下における宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料の乖離に即応した経済的利益である。

したがって、更地としての価格(市場価値)に即応する正常実質賃料と賃貸借契約の制約下における宅地の経済価値に即応した適正な賃料との間にも乖離が生じる(契約減価あるいは建付減価に対応する部分)こととなり、したがって、それはまた元本価格たる借地権価格と底地価格の合計額は、必ずしも更地価格と一致しないことを意味する。→市場性減退

・借地権価格と底地価格の合計額は、必ずしも更地価格や建付地価格と一致しない理由

借地権は、地上権又は賃借権として、契約により使用収益が制約されているので、必ずしも最有効使用の方法が採り得るとは限らず、その価格について契約上の制約による減価(契約減価)が発生することとなる。また、借地上の建物による建付減価も考慮を要する。

一方、底地は、使用権を借地人に移しているので、最有効使用を前提とする価格を求める余地がない。

借地人が底地を購入する場合だけでなく、底地の所有者(地主)が借地権を購入する場合にも増分価値発生により市場価値との乖離に基づき限定価格となる場合がある。借地権及び底地について限定価格を考慮するならば、その合計額が更地の正常価格と一致しないこととなる場合が生ずる所以も理解できよう。すなわち、更地、借地権、底地は、それぞれの取引市場を異にすることとなるのである。

借地権及び底地について

借地権及び底地の鑑定評価に当たって留意すべき事項は次のとおりである。

借地権単独では取引の対象とされないものの、建物の取引に随伴して取引の対象となり、借地上の建物と一体となった場合に借地権の価格が顕在化する場合がある。

□借地権(定期借地権を含む。)単独では取引の対象とされず、価格が観察されない場合にも、建物の取引に随伴して取引の対象となり、借地上の建物と一体となった場合に借地権の価格が顕在化する場合があるので、借地権付建物に原価法を適用する場合においては、この顕在化する借地権の価格を適切に査定する必要がある。                              

一般に借地権取引の慣行については、借地権が単独で取引の対象となっている都市又は地域と、建物の取引に随伴して取引の対象となっている都市又は地域があるが、建物の取引に随伴して取引の対象となっている都市又は地域における借地権の鑑定評価に当たっては、独立鑑定評価に類するものとしてではなく部分鑑定評価として取り扱うべきである。

なお、借地権のうち賃借権の譲渡又は転貸については、譲渡又は転貸についての特約がある場合を除き賃貸人の承諾を要する(民法第612 条第1 項)。しかし、借地権者が借地上の建物を譲渡しようとする場合において、賃借権の譲渡又は転貸について借地権設定者の承諾が得られないときは、一定の要件のもとに、裁判所に対して借地権設定者の承諾に代わる許可の裁判を求めることが出来る(借地借家法第19 条第1 項、旧借地法第9 条の2 1 項)ので、建物の取引に随伴して取引される借地権(賃借権)の流通性は、かなり高いものということができる(この場合において、裁判所は当事者の利益の衡平を図るため、必要があるときは、賃借権の譲渡又は転貸を条件として、借地条件の変更又は財産上の給付を命ずることがある。)。

借地借家法第19 条第1 項は定期借地権等にも適用され、借地権単独では取引の対象とされず、価格が観察されない場合にも、建物の取引に随伴して取引の対象となり、借地上の建物と一体となった場合に借地権の価格が顕在化する場合がある。したがって、定期借地権付建物に原価法を適用する場合においても、この顕在化する借地権の価格を適切に査定する必要がある。

②宅地の賃貸借契約等に関連して、借地権者から借地権設定者へ支払われる一時金には、一般に、(ア)預り金的性格を有し、通常、保証金と呼ばれているもの、(イ)借地権の設定の対価とみなされ、通常、権利金と呼ばれているもの、(ウ) 借地権の譲渡等の承諾を得るための一時金(名義書替料・譲渡承諾料)に分類することができる。これらのほか、定期借地権に係る賃貸借契約等においては、賃料の前払的性格を有し、通常、前払地代と呼ばれているものがある。これらの一時金が借地権価格又は底地価格を構成するか否かはその名称の如何を問わず、一時金の性格、社会的慣行等を考察して個別に判定することが必要である。

※名義書替料は、通常、手数料的な意味を有し、借地権価格を構成しない。→底地価格を構成する!

□借地契約に関連して、借地権者から借地権設定者へ支払われる一時金には、一般に、(ア)預り金的性格を有し、通常、保証金と呼ばれているもの、(イ)借地権の設定の対価とみなされ、通常、権利金と呼ばれているもの、(ウ)借地権の譲渡等の承諾を得るための一時金に分類することができる。

□前記のほか、通常、更新料・増改築承諾料・条件変更承諾料等と呼ばれているものもあり、また、定期借地権に係る賃貸借契約等においては、賃料の前払的性格を有し、通常、前払地代と呼ばれているものがある。

□これらの一時金が発生するか否か、また発生したとしても借地権価格又は底地価格を構成するか否かはその名称の如何を問わず、一時金の性格、社会的慣行等を考察して個別に判定することが必要である。

借地権取引の態様には、上記のようなものがあり、近隣地域及び同一需給圏内の類似地域等において、これらの態様を把握することによって、借地権の取引慣行の成熟の程度を知ることができる。

借地契約に関連して、借地権者から借地権設定者へ支払われる一時金には、一般に、(ア)預り金的性格を有し、通常、保証金と呼ばれているもの、(イ)借地権の設定の対価とみなされ、通常、権利金と呼ばれているもの、(ウ)借地権の譲渡等の承諾を得るためのもので、通常、譲渡承諾料又は名義書換料と呼ばれているものがある。このほか、(エ)借地契約期間の満了を契機として徴収される場合がある一時金で、通常、更新料と呼ばれているもの、(オ)借地上の建物の増改築についてこれを制限する旨の借地条件の緩和に伴う一時金として、通常、増改築承諾料と呼ばれているもの、(カ)非堅固の建物所有を目的とする借地権の堅固の建物所有を目的とする借地権への変更に伴う一時金で、通常、条件変更承諾料と呼ばれているものがある。

さらに、定期借地権にかかる前払地代については、税務上の取扱い(平成16 12 16 日国土交通省土地・水資源局長より実施された「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取り扱いについて(照会)」について平成17 1 7 日付国税庁課税部長による回答で前払地代の税務上の取り扱いが明確になったものである。)が示されたことを契機として、定期借地権設定契約において前払地代が多く利用されるようになった。前払地代とは地代の一部又は全部を一括して前払いした場合の一時金をいうが、特に定期借地権の前払地代については、契約期間にわたって賃料の一部又は全部に均等に充当されることや契約期間の満了前の契約解除又は中途解約時における未経過部分に相当する金額の借地権者への返還の取り決め等の要件を具備すれば、一時金として授受されていても当該年分の賃料に相当する金額での税務処理ができる。これに伴い、平成26年の基準改正で(キ)定期借地契約において授受される前払地代を新たな一時金として位置づけた。これらの一時金については、例えば更新がない定期借地権においては更新料の発生は見込まれず、また、借地権譲渡における譲渡承諾料又は名義書換料は将来キャッシュフローに影響を与えるものでない限り手数料的なものと解され借地権価格を形成するものとならない。さらに前払地代方式での定期借地権(一時金として授受された前払地代について当該年分の地代に相当する金額での税務処理ができる要件を具備した定期借地権をいう。)においては、未経過前払地代(前払地代の未経過部分に相当する金額)の別途精算(借地権設定者との間で新たに未経過前払地代に相当する前払地代を支払うか、借地権設定者は関与せず新借地権者が旧借地権者に対して定期借地権の対価のほかに借地権設定者に対する未経過前払地代の返還債権の対価を支払うことでの精算が考えられる。)を前提とした価格となるが、未経過前払地代は時の経過に伴い毎年の地代に振り替わってゆく(当該毎年の地代の振替に伴い、借地権設定者への未経過前払地代の返還債権は年々減少することとなる。)ため、未経過前払地代はその運用益及び償却額(未経過前払地代の毎年の振替額とそれを一時金として支払うための借地権者の運用益獲得機会の喪失相当額分を意味する。)を通じて定期借地権価格に影響を及ぼす等、どのような一時金が発生するか否か、また発生したとしても借地権価格又は底地価格を構成するか否かについてその名称の如何を問わず、一時金の性格、社会的慣行等を考察して個別に判定することが必要である。

③ 定期借地権及び定期借地権が付着した底地の鑑定評価に当たって留意すべき事項は次のとおりである。

(ア)定期借地権は、契約期間の満了に伴う更新がなされないこと

(イ)契約期間満了時において、借地権設定者に対し、更地として返還される場合又は借地上の建物の譲渡が行われる場合があること

□借地借家法には、一定の期間が満了すれば借地関係は更新されずに契約が終了する借地制度、すなわち定期借地権がある。定期借地権は、一般定期借地権、事業用定期借地権等及び建物譲渡特約付借地権に分けられ、例えば借地借家法第22 条のいわゆる一般定期借地権では、借地期間を50 年以上とすることを条件として、(ア)契約の更新をしない、(イ) 建物再築による期間の延長をしない、及び(ウ) 法第13 条の規定による建物の買取りの請求をしない、という3 つの特約を公正証書などの書面で契約をすることで成立する。定期借地権は、契約期間の満了に伴う更新がなされない借地権であるため、契約期間満了時において借地権者が建物を取壊したうえで借地権設定者へ更地として返還することが原則になるが、契約期間満了時の建物の状態等によっては借地上の建物の無償譲渡等が行われる場合もあるため、借地期間満了時における建物の取扱い等、契約内容について確認を行うことが必要になる。

④借地権及び底地の鑑定評価においては、預り金的性格を有する一時金(保証金)についてはその運用益を、前払地代に相当する一時金については各期の前払地代及び運用益を、それぞれ考慮するものとする。

鑑定評価を行うためには、資料を豊富に収集し、それらを比較検討することが大切です。

鑑定評価書の内容は、実質的に不動産鑑定士が自己の専門的学識と経験に基づいた判断と意見を表明するものです。

※アンダーラインを付した箇所は運用上の留意事項より抜粋

赤字の箇所は補足説明

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