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土地区画整理事業/専門家相談事例回想録‐vol.32

お客さまからご相談いただいた、ある土地区画整理事業の事件概要をご紹介します。掲載にあたっては、お客さまのご承諾をいただいております。

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〇〇〇年(〇)第〇〇号

原告 〇〇〇〇

被告 〇〇〇 

〇〇地方裁判所第〇民事部御中

〇〇〇年〇月〇日 

準備書面(7)

〇〇〇都道府県○○区市町村〇〇〇丁目〇番〇号

原告 〇〇〇〇

訴訟代理人弁護士〇〇〇〇

 

6 換地計画未作成と既決事項との矛盾

(1)仮換地指定をなし得る場合

法第98条第1項は、仮換地指定をなし得る場合としては、工事のために一時的に使用収益権を他に移す必要のある場合、すなわち一時利用地的な意味で指定する場合と換地計画が既に決定されてはいるが、施行地区全体から見れば換地処分を行うには未だ準備不十分であって、換地計画に定められた換地を一応仮換地として指定しておく必要のある場合、すなわち換地の予定地的な意味で指定する場合との二つの場合を規定している(研究会383頁)とされている。

(2)事実上の換地予定地的仮換地

被告は、本件仮換地指定は、「工事のため必要がある場合」に該当するとしているので、上記(1)の前者「一時利用地的な意味で指定」したと主張しているものと解されるが、既に30年が経過し、本街区の工事は20年以上前に終了している。よって、明らかに「一時利用地的な意味で指定」したものとは言えない。しかも現仮換地がこのまま換地になることは決定していると原告のみならず裁判長に対しても明言した。そうすると、後者の「換地の予定地的な意味で指定する場合」に当たると解するのが相当であろう。換地計画が未策定であることとの矛盾は、工事概成時を決めかねていることにより清算金が決まっていないだけで、最重要事項である換地の位置、範囲は30年も前に決定しているのであるから、事実上換地計画は“内定”していると考えればよい。

また、長期化故に未だに地権者から小出しに提出される要望に応じて部分的な仮換地交換等を頻繁に行っているが、これを「換地処分を行うには未だ準備不十分」な状況と考えれば問題はない。

(3)基準違背と不照応

したがって、現仮換地を換地とすることが既決事項であるとするならば、換地計画未作成の抗弁は無条件で許されるべきではなく、仮換地指定に先行して行われた換地設計及びその前段として行われた土地評価の適法性が問われなければならない。違法の指摘を受けたために、慌てて基準の方を直す(辻褄を合わせる)ことで違法性が治癒されることはない。適法適正な土地評価、換地設計に基づき仮換地指定を行った後、施行者に帰責性のない合理的理由(事情変更)が生じたためにやむを得ず基準改正を行って遡及的に瑕疵を治癒せざるを得ないような極めて例外的なケースとは根本的に事情が異なる。

(4)換地設計の重要性

換地の位置、範囲が既決事項なのであるなら、仮換地指定に先立ち行われる土地評価及びこれを基礎とする換地設計が地権者にとって決定的に重要な意義を有することとなる。

したがって、あくまで工事のために行った仮換地指定であると主張するならば換地計画がない以上、既決事項の主張をすることは許されない。唯一両主張の並立を正当化する条件は、自ら定め公表した本件基準等の“公約”を適法適正に適用したうえで仮換地指定を行った事実を立証することである。

□(被告は)土地評価基準違背の詳細については、見直し中、修正予定、古いことは時効だなどと繰り返すだけである。しかも、信じ難いことに、換地計画がないとの詭弁により基準そのものを既成事実に合わせ作り変えることも許されると立法趣旨に反する主張を行っている。

(5)換地計画の決定基準

本来、両主張は二律背反の関係にあり、並立を求めるならば、公約の適法適正な履行を証明することが不可欠である。なぜなら、被告が拠り所とする「工事のために行う仮換地指定」においても法の定める換地計画の決定基準を考慮しなければならない(法第98条第2項)とされているからである。

ここに“法の定める換地計画の決定基準”とは、照応規定(法第89条第1項)に掲げられた各要素、過小宅地基準等に他ならず、その具体化のために被告は公約(本件基準等)を掲げたのであるから、それらを遵守のうえに仮換地を適切に定めた事実を立証しなければならない。

法第98条第2項は土地区画整理事業の集約ともいうべき換地処分に連動することを十分に念頭において行わなければならないことを特に明示しているのである(松浦494頁)

いずれにしても、現状では換地計画がない以上、既決事項の主張は論理矛盾を引き起こすものであり、既決事項を主張するのであれば“形式上”換地計画は未作成であるが、換地予定地的仮換地であると言い直さなければならない。

したがって、本件従前地に対する仮換地指定にあたっては、整理前後の照応性を確保するよう換地計画決定基準の基礎たる公約、すなわち本件基準等を厳守し適法適正にこれを行わなければならなかったのであって、被告が画策するような公約破棄(事後的な基準の恣意的操作)によって過去の不正処理を遡及的に適法化させてしまおうとするのは、本末転倒である。

なお、事情変更による修正には合理的根拠を有することはいうまでもない。ただし、その理由は審議会の議を経た〇〇〇年〇月〇日から当初の仮換地指定を行った〇〇〇年〇月〇までの間に生じた事情に関するものだけであるから事実上あり得ない(前記(3)で詳述)。事後的に恣意的な理由を作出するが如きは許されない。ましてや、事業計画で夢見た増進は現状明らかに見られない(前記1(1)、(2)で詳述)。絵に描いた餅で終わるのは確実であるから地権者負担を増加させるような合理的理由は存在しない。逆に地権者に有利に修正すべき合理的理由は数多存在するのが実態である。

□被告は、事後変更につき何ら合理的理由を示せない。単に不正処理の弁解ができないことから基準の方を変えてしまえと企んでいるに過ぎないからである。

(6)信義に悖る主張

被告の主張を単純化して総括すると、「換地計画がなく、仮換地は工事のために行ったものだから施行者のさじ加減で決めてよいのだ!基準違背があれば、これから基準を変えるから問題ない。それでも不足があれば清算金を払うから違法や損害はあり得ない。だから仮換地がそのまま換地となってもよいのだ!」となる。これは、あらかじめ事情判決を当てにしてやってきたかの如き理屈といえよう。換言すれば、基準を無視して既成事実(仮換地)をつくりあげてしまってから、既成事実に合うよう最後に基準を変えて何事もなかったかの如く幕引きを図ろうとするものである。また、古いことは分からない、時効だとの主張は、「最後には基準を変えるのだから、既成事実(仮換地)をどうつくりあげたかはいまさら重要ではない!つまり、(換地となることが決まっている)現在の仮換地がどのように決められたかが重要なのではなく、どのように決められたことにするのかが重要なのだ!」と言っているに等しい。小学生が聞いても本末転倒だというであろう。

なお、換地計画に基づかない工事のための仮換地指定においては、地積を換地設計から算出することはできないので、現実の工事の必要に従って仮換地を特定して算出するほかない(松浦500頁)。被告は、本件換地設計基準に従い、仮換地地積を定めた旨を被告準備書面(3)10頁で補足説明している。要するに、換地を既決事項とすることは、換地設計は確定事項とすることと同義であり、それは換地計画の一部であることから、被告自ら換地計画のうち最重要事項である換地の位置、範囲が事実上確定済であることを訴えているのである。したがって、被告が行ったのは単なる一時的な工事のための仮換地指定ではなく、確定済の換地設計に基づく工事、すなわち永久的工事のための仮換地指定であった”というのが正確なところである。

よって、確定済の換地設計(前提となる土地評価を含む。)に違法性があれば当然、それに基づき行われた仮換地指定処分の違法性を主張し得るのであって、今後の課題(本件土地評価基準の事後的変更や工事概成時(清算単価)の決定等)が残されているから換地計画は未完成であるとの抗弁を盾に違法性が阻却されることはない。つまり、換地が既決とするならば、確定済とする換地設計(換地の位置、範囲の確定)には強度の遵法性が求められ、遵守すべき対象は自ら掲げた法の具体化たる公約、すなわち本件土地評価基準、本件土地評価要領及び本件換地設計基準に他ならない。

この理は、換地が既決事項だとする被告の主張と表裏の関係にある。換地は決定していると主張する一方で、換地計画全体が完成していない以上、公約を既成事実に合わせ変更し得るというのではあまりにも信義に反する。被告がいうところの今後作成するとされる換地計画は単なる既成事実の発表に過ぎないものとなるからである。

なお、仮に、被告が換地は既決事項ではないと前言を翻した場合、信義に照らし、仮換地の修正若しくは換地処分における位置、範囲の修正を要するものと考えたい。なぜなら、当該既決事項の主張理由は、換地修正に係る原告の期待権発生を未然に防ぐためと考えられ、使用収益開始の事実が換地修正を阻む法的根拠はなく、単に被告がやりたくないだけだからである((甲67)。

 

【主な引用文献(順不同)】

1 下村郁夫著「土地区画整理事業の換地制度」

平成13年7月30日初版発行(本文において「下村」という。)

2 松浦基之著「特別法コンメンタール土地区画整理法」

平成4年7月10日初版発行(本文において「松浦」という。)

3 新井克美著「登記手続における公図の沿革と境界」

昭和59年7月15日初版発行(本文において「新井」という。)

4 清水浩著「土地区画整理のための換地設計の方法」

昭和49年1月10日初版発行(本文において「清水①」という。)

5 清水浩著「土地区画整理のための換地計画の進めかた」

昭和56年5月17日初版発行 (本文において「清水②」という。)

6 土地区画整理法制研究会著「逐条解説土地区画整理法改訂版」国土交通省監修

平成18年12月10日初版発行(本文において「研究会」という。)

7 芦田修、阿部六郎、清水浩共著「土地評価と換地計画」

昭和50年6月30日初版発行(本文において「芦田等」という。)

8 渡部与四郎、相澤正昭著「土地区画整理法の解説と運用」

昭和50年3月25日初版発行(本文において「渡部」という。)

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