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お客さまからご相談いただいた、ある土地区画整理事業の事件概要をご紹介します。掲載にあたっては、お客さまのご承諾をいただいております。
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〇〇〇年(〇)第〇〇号
原告 〇〇〇〇
被告 〇〇〇
〇〇地方裁判所第〇民事部御中
〇〇〇年〇月〇日
準備書面(7)
〇〇〇都道府県○○区市町村〇〇〇丁目〇番〇号
原告 〇〇〇〇
訴訟代理人弁護士〇〇〇〇
(5)宅地係数について
① u値に係る誤解
被告は、繰り返し用途地域変更(緩和)を受益とし、容積率が大きくなったのだからu値が上昇するのは適正だと短絡的な主張を繰り返しているが、これも被告が得意とする後付的な言い訳に過ぎず、まったく論拠を欠く発想である。
この点につき以下のとおり説明する。
ア 用途地域変更に係る予測の可否
原告が指摘しているのは、あくまで本件処分①の前提として行われた評価の違法性である。整理後路線価の適否は適正、妥当な将来予測に根拠を置いたものであるか否かが焦点となることはいうまでもない。
この点、本件事業計画書(甲16)4頁には、「高度化の傾向は特にない。」と明記されていることから、〇〇道〇〇〇線(以下「本件路線」という。)沿線地域の将来の用途地域変更(容積率、建蔽率の緩和等)を予測して評価したとは考えられず、また、そもそも本件路線は本件事業区域には含まれていないに等しい。
もっとも、用途地域の変更予測を区画整理における土地評価に反映し得るか。土地区画整理事業は、都市計画の上位計画に従うほか、各々の宅地の利用増進を図るために、公共施設の整備改善を実施するものであって、まさに、土地の基盤を整備する事業である(清水②6頁)。
また、本件事業開始時(〇〇年当時の法制下)における用途地域の決定権は県にあった。被告は、〇〇に対し用途地域の変更に係る申出ができる立場に過ぎなかった。すなわち、用途地域を決めるのはあくまで〇〇であって、被告ではない。もっとも、被告は、土地区画整理事業の施行者として土地の基盤整備を行う地位と用途地域変更の申出を行いうる地位とを併有していたことになるが、この二つの立場は明確に区別されなければならない。施行者の立場から当該申出を行うというのは、業務権限の区分上、論理的にあり得ない。
したがって、本件事業開始時において、施行者としての被告は、あくまで土地基盤整備に係る権限を有するに過ぎず、用途地域の変更を予測した土地評価を行うことは論理上あり得ないのである。この点、本件土地評価基準には「建築物の容積的利用可能度」として容積率を匂わせる表記はあるものの用途地域の変更が具体的に明記されていないこととも整合するものである。
さらに、用途地域は都市計画法第6条による基礎調査の結果に基づき5年ごとに見直すべきとされていた(同法第21条第1項)のである(甲83)から、本件事業開始直後に将来の用途地域変更を予測した土地評価を行うことはありえない。要するに、基礎調査(現実の利用状況等)を踏まえて初めて見直すものなのであるから基礎調査を経ずして将来の用途地域変更を考慮した受益を計上するのは実現性の観点から是認し得ず、もしそのような評価を行ったとすれば不正評価に相当するものである。
なお、被告は整理後のu値を全路線一律に「1.05」としているが、後述のとおり、〇〇年の用途地域決定時から本件事業開始時を通じて今日まで2本の都市計画道路(〇〇線及び〇道〇〇線)及び〇〇自動車道の沿線地域は法改正等による用途地域区分の名称変更はあるものの一貫として建蔽率60%・容積率200%で不変であり、本件路線沿線を除くその他の地域も一貫として建蔽率50%・容積率80%で不変である。また、整理前における〇〇自動車道沿線(整理前7-0、8-0、9-0、10-0)の地域は上述のとおり事業開始前から住居地域で容積率200%であったにもかかわらず、整理前のu値は0.80とされている。この事実は、容積率や建蔽率の大小関係によってu値を設定したわけではないということを被告自ら説明していることを示す。
したがって、本件路線の沿線地域の建蔽率が60%、容積率が200%となったからといって都市計画道路沿線地域のu値である「1.05」を超えて上昇する筈もない。
この点、被告は全体を平均化したなどと意味不明なことを言いつつ、続けて用途地域変更があった本件路線のu値は上昇し、さらに受益が大きくなると未だにまったく見当違いの主張をしている(被告準備書面(3)2頁)。
イ 用途地域変更の経緯
(ア) 48年基準による用途地域
まず、本件事業開始時(〇〇年)における本件路線沿線地域は、被告のいうとおり第一種住居専用地域に属していた(甲71)。これは、〇〇年の〇の用途地域指定基準(以下「〇〇年基準」という。甲82)に基づき、〇が決定し、〇〇年〇月〇日に告示されたものである。
〇〇年基準においては、「将来のあるべき姿の実現」を図るために用途地域を定めるものとされ、本件事業区域(都市計画決定前)は都市計画道路の二路線(〇〇線及び〇〇〇線)及び〇〇自動車道の沿線地域を住居地域(建蔽率60%・容積率200%)とし、その他の地域は第一種住居専用地域(建蔽率50%・容積率80%)として指定(以下「〇〇年指定」という。)された。
つまり、本件路線沿線地域は、「良好な住居の環境を保護するため低層住宅の住宅地とすべき区域」をもって、「将来のあるべき姿」とされ、本件路線は幹線道路とはみなされていなかった(以下「〇〇年構想」という。)のである。次に、用途地域の一斉見直しが行われた〇〇〇年(当初事業計画公告と同年)及び〇〇〇年においても本件事業区域内の用途地域変更は一切行われていない。〇〇〇年の見直しに係る基準(甲83(以下「〇〇年基準」という。))及び〇〇〇年の見直しに係る基準(以下「〇年基準」という。)においても、〇〇年基準の内容が基本的に受け継がれ、幹線道路沿いには第一種住居専用地域は定めないものとされた。
したがって、本件事業区域の〇〇年構想は、本件事業開始以降においても踏襲され続けたと考えられる。これは、本件路線は本件事業区域内唯一のバス通りであり(甲16(5頁))、その沿線地域には本件事業開始前から住宅兼用店舗が建ち並んでいた(甲40、92)にもかかわらず、その沿線地域は一貫として第一種住居専用地域、すなわち「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するために定める地域」とするのが「将来のあるべき姿」と構想されてきたことを意味する。
また、本件路線は、用途指定基準との関係では一貫として幹線道路とはみなされなかったのであり、事業計画においても幹線道路ではなく単なる区画街路として位置づけられていた(甲16(14頁)(注))こととも整合する。この背後事情としては、〇〇橋の工事竣工に合わせた都市計画道路〇〇線の開通が目前に迫っていたことから中心街区の駅までの利便性が飛躍的に向上し、近い将来〇〇線未整備部分(本件事業区域外の東側部分)の整備が進み全面開通が実現すれば〇道〇〇〇線は〇〇線と直結することから、本件事業区域内の本件路線沿線はある意味では取り残され、衰退する(注)とまではいわないものの発展的に推移するとは考えられず幹線道路化は構想外であった。 (注)バスの運行本数減等具体的なことまで想定されていたかは定かではないが、少なくとも店舗等他用途のさらなる進出等の発展的な予測は考えられていなかった。
(イ) 事情変更(バブル到来、予期せぬ法改正等)
ところが、その後地価高騰(いわゆるバブル)対策として、土地取引、土地利用に係る様々な規制強化措置が打ち出され、その一環として〇〇年に都市計画法、建築基準法が改正され(以下改正前のそれらを「旧法」、改正後のそれらを「新法」という。)、従来の用途規制区分が細分化された。これに伴い、慌ただしく基準が見直され、5年を待たずして緊急的に〇〇年〇月新基準(甲84)が定められた。
都市部で住居地域への他用途の浸食が進み、これが居住環境の悪化をもたらすようになったことから、住居専用地域の環境保全を徹底するために、旧第一種住居専用地域は原則として第一種低層住居専用地域を指定するとされる一方、用途の混在を許容すべき区域(新法に基づく第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域等)を明確にする方針が打ち出された。
要するに、本件事業区域に実態的に顕著な変化が生じたわけではないが、新法や新基準に合わせ、〇〇年構想を一部転換する必要が生じ、それまで一貫として「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するために定める地域」として構想されてきた本件路線沿線地域をもともと店舗が混在していたことから住宅以外の他用途にも“正式に”“解放”し、既存不適格建築物が生じないようにした(注1)のである。
繰り返すが、法改正、基準改正に伴う政策転換により、本件路線沿線地域は〇〇年構想に適合した第一種低層住居専用地域(新法により創設された用途地域区分で従来の第一種住居専用地域に相当する。)とはせずに、第一種住居地域等の住宅以外の他用途混在許容型とでもいうべき用途地域に変更しただけである。決して〇〇年構想に反する土地利用の変化、すなわち第一種住居地域等(60%、200%)に適合する土地利用の変化が本件事業により生じたわけではなく、あくまで政策転換に基づく(注2)ものなのである。
(注1)都市計画課担当者からは既存店舗が既存不適格にならないよう用途地域を変更した旨の説明を受けた。※ただし、既存店舗は本件事業前から存在していた(甲40、92)のである。
なお、当該担当者に区画整理部門と都市計画部門があらかじめ歩調を合せて、つまり本件事業計画公告時に両者が協調して事業計画が反映されるように用途地域を決定(変更)することがあるのか質問したところ、“当時では”考えられないことで、事業は事業、都市計画は都市計画という時代であったとの回答を得た。※ただし、“現在では”事業計画公告時に用途地域変更を行うことが原則とされるようになっている。
(注2)本件事業開始前から本件路線沿いには、ガソリンスタンド、食堂(バー)、酒屋等の住居兼用店舗が存在していた(甲40、92)が、これを機にそれら他用途を正式に許容するよう用途地域変更が行われた。裏を返せば、本件事業開始時前からこれらの店舗が存在していたにもかかわらず、〇〇年構想(本件路線沿線は「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護する地域」とする構想)は〇〇〇年まで不変だったのである。
(ウ) 苦肉の策(辻褄合わせの連続変更)
しかしながら困ったことが起きた。その変更は新基準の変更原則(甲84(13頁))に抵触する、すなわち原則的変更パターンのいずれにも該当しないことから原則違反を回避しなければならない。そこで、新基準が公表され、〇年基準が旧基準となり表舞台から姿を消すタイミングに照準を定めその直前(3日前)にわざわざ旧法に基づく用途地域である「住居地域」に一旦変更し、さらにその1年後に新法に基づく用途地域である「第一種住居地域」に変更するという慌ただしく常識的には考えられない離れ業を演じたのである。これは、いわばお役所が得意とする辻褄合わせに他ならない。
(エ) 用途地域変更の顛末
ところが、これですべて落着というわけにはいかなかった。この頃、既にバブルは崩壊の一途を辿り始めていたのである。変更の建前とした他用途への開放に追随する変化が生じるどころか、既存の店舗すらすべて廃業、閉鎖し、本件用途地域変更の意義は完全に失われた(注)。
(注)現在、本件用途地域変更とは何ら関係なく従前から存在していた各店舗はすべて閉鎖、消滅し、本件路線沿線に店舗は一つも存在しない(甲54-1・2)。何と皮肉な結末であろうか。本件用途地域変更により既存不適格から解放された途端にすべて消えてしまったのであるから。これにより、本件用途地域変更の意義は完全になくなったといえる。何のために変更したのか。以上の事実経過からも本件用途地域変更が何ら受益をもたらすものではないという原告の指摘が正当視されよう。
【主な引用文献(順不同)】
1 下村郁夫著「土地区画整理事業の換地制度」
平成13年7月30日初版発行(本文において「下村」という。)
2 松浦基之著「特別法コンメンタール土地区画整理法」
平成4年7月10日初版発行(本文において「松浦」という。)
3 新井克美著「登記手続における公図の沿革と境界」
昭和59年7月15日初版発行(本文において「新井」という。)
4 清水浩著「土地区画整理のための換地設計の方法」
昭和49年1月10日初版発行(本文において「清水①」という。)
5 清水浩著「土地区画整理のための換地計画の進めかた」
昭和56年5月17日初版発行 (本文において「清水②」という。)
6 土地区画整理法制研究会著「逐条解説土地区画整理法改訂版」国土交通省監修
平成18年12月10日初版発行(本文において「研究会」という。)
7 芦田修、阿部六郎、清水浩共著「土地評価と換地計画」
昭和50年6月30日初版発行(本文において「芦田等」という。)
8 渡部与四郎、相澤正昭著「土地区画整理法の解説と運用」
昭和50年3月25日初版発行(本文において「渡部」という。)
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