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土地区画整理事業/専門家相談事例回想録‐vol.41

お客さまからご相談いただいた、ある土地区画整理事業の事件概要をご紹介します。掲載にあたっては、お客さまのご承諾をいただいております。

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〇〇〇年(〇)第〇〇号

原告 〇〇〇〇

被告 〇〇〇 

〇〇地方裁判所第〇民事部御中

〇〇〇年〇月〇日 

準備書面(7)

〇〇〇都道府県○○区市町村〇〇〇丁目〇番〇号

原告 〇〇〇〇

訴訟代理人弁護士〇〇〇〇

 

(6)照応原則無視

① 怠慢による調査不足

施行者サイドから換地設計の方針を定め、その原則により押しまくると何かと問題が起きてくる。・・・・・・ 土地区画整理事業では換地計画上の土地の調査を十分にしなければならない。

ア 道路、広場 ・・・・・・

イ 建築者及び工作物

ウ 銅像、記念碑、神社、仏閣、名勝古跡、その他由緒ある地物又は地域

エ 公私境界石、・・・・・・、その他「従前の土地図」作成上必要と思われるもの

(芦田等167頁)

被告は、上記のような換地設計上必要とされる入念な現地調査を怠り(甲81)、書面等による机上調査程度しか行わず、漫然と一方的な換地設計を行ったわけである。

② 照応原則の目的

ア 土地区画整理事業の目的のために必要な変更以外の変更(注1)を受け、それによって地権者の財産のあり方に過度の変化(注2)が生じることは不適切である。

この趣旨から土地区画整理事業は宅地の特性に必要な限度を超えて変更をもたらさないこと、換言すれば従前地と換地の対応関係が不適切でないことを制約条件としなければならない

そこで法は照応原則を定め、許容される宅地の特性の変化の範囲を示し、地権者の権益を保護する必要と市街地整備の必要を調整しようとする。

したがって照応原則は事業計画その他の前提条件の下で、換地として配分される土地を個々の従前地を基礎として割り当てるための基準なのであり、その割り当ての適正さ、すなわち従前地と換地の適切な対応関係が照応なのである。

照応原則は土地区画整理事業による宅地の特性の変化の許容範囲を示す唯一の一般的規定であることから、際立った重要性を持っている(下村57頁)。

(注1・2)前主の方針転換(後記11で詳述)は、まさに本件事業によってもたらされた『必要な変更以外の変更』かつ『財産のあり方に過度の変化』が生じたことを象徴するものである。

イ 宅地や宅地に関する権利は、地権者の財産であるから、従前地と換地の間で金銭的に評価された財産的価値の照応があることは明白である。

金銭的に評価された財産的価値の照応が、個々の照応項目の照応に優先する場合は、すべての照応項目の照応度の低さを位置と地積の一方又は両方の変更によって相殺することができる。だが、従前地の特性を換地について保持するためには財産的価値だけに頼って従前・従後の対応関係を判断すべきではない(松浦418頁、下村59頁)。

財産的価値の照応以外の要因を無視することは不適当であるからであり、それゆえ照応原則は財産的価値の照応があっても照応項目に無頓着な換地を許さない。これは照応原則の大きな目的が宅地が地権者に与える利用ポテンシャルの保護(注1)であり、また財産的価値以外の土地の特性の根本的な変化の抑制(注2)であることを含意する(下村5960頁)。

(注1・2)本件仮換地の醜く歪化、縮小化された地形及びこれに伴う前主の方針転換(後記11で詳述)は、本件処分が照応原則の目的かつ制約条件である『利用ポテンシャルの保護』及び『土地の特性の根本的な変化の抑制』を著しく逸脱したものであったことを象徴する

ウ なお、被告がこれまで主張してきた現在における現地の状況説明(答弁書2頁)、すなわち「樹木は荒れ放題」、「鎮守の森という状況ではない」とする発言は、上記ア、イのとおり本件処分が照応原則を逸脱していたことを被告自ら立証したものである。

要するに、本件事業開始時においては、現地は広大な鎮守の森に囲まれ、その中央に神社を象徴する地物として祠があり、その周囲には石碑や石灯籠等が配置されていた(この事実は古文書、地図、写真等で立証済みであり、被告の反論もない。)。しかしながら、本件処分によって現地は醜く歪化、縮小化され、事実上鎮守の森は剥奪され、神社の尊厳は破壊された。そのまま15年の時が経過し、前主は方針転換した。

無理矢理押し付けられた醜く“不要な”部分(違法な換地設計に基づく違法な仮換地部分)を住宅敷地に転用したのである。この経過は、本件処分が『利用ポテンシャルの保護』及び『土地の特性の根本的な変化の抑制』、すなわち、照応を欠き、現地は『必要な変更以外の変更』を受け、それによって『財産のあり方に過度の変化』をもたらしたことを証明するものである。

よって、前主の一部宅地転用を執拗に主張する被告は、本件処分により現地の従前の状況が過度の変化をもたらしたことを自ら立証しているのである。照応原則の何たるかを全く理解していない証といえよう。

③ 施行者の立証責任、説明責任

照応の適否は、事柄の性質上多分に判定者の主観に依存する部分があるのは避けられないところ、いずれの区画整理においても、施行者はその判定基準に最低限の透明性、客観性を付与するために、公約として土地評価基準を定め、これによる評価額を基礎とした換地設計を行い、地積、価格面からの照応を期するのである。

よって、土地評価が不適正、違法であれば必然的に換地設計も不適正、違法にならざるを得ないのである。この点、被告は原告が何ら不照応であることを立証していないと言うが、照応の有無を論じる大前提、すなわち(位置と地積を決する)土地評価の段階で既に違法な処理がなされているのであるから、被告の主張はそれ自体失当である。

まず、被告こそ評価の適法性及び換地設計の適法性を立証しなければならないのであり、その責務を果たしたうえで地積や価格以外の諸要素につき照応の有無を争うのが相当と言える。

現仮換地が換地となることが既決事項なら、現仮換地の指定根拠となった土地評価や換地設計について古い話だから説明できない、時効だとの抗弁は許されない。

④ 「照応する」の意義

照応するとは、通常の能力を持った人から見て、大体において同一条件にあると認められる状態にあることを指す(逐条(上)260頁、「都市計画・区画整理・収用の法律相談」142頁、松浦414頁、その他)とされ、また、「従前の土地各筆と換地各筆の関係をいったもの、即ち縦の関係をいったもので、通常人が考えて大体同一条件にあると認められることを意味する」とも表現さている(下出215頁、横浜地判昭和41年10月20日(判例15))。

次に、公平の観念も照応の概念に含み、整理前後の各筆全部が、いわば横の関係でみた場合でもそれぞれ照応していること(横の照応)が最も公平に区画整理の損益を分担せしめることにもなるので、照応するとは、言い換えればすべての換地が概ね公平に定まるべきことを意味するともいえる(下出215216頁)

また、仮換地指定にあたっても法第89条に規定するいわゆる照応の原則を考慮してなされるべきであるが、右原則は単に多数の地権者相互の関係において公平であるだけでは足りず、当該権利者にとっても従前地と仮換地とが照応することが必要である前橋地判昭和44年11月22日(判例16)

さらに、各要素を総合的に考慮してもなお社会通念上不照応である場合は、仮換地指定処分は、裁量的判断を誤った違法なものとすべき最判平成元年10月3日(判例17)との判決が示された。

 照応項目の問題

法第89条第1項に列挙された照応判定の各項目には、次のような問題がある。まず、様々な含意(問題1)があり、必ずしもその含意するところが条文上明確ではない。また、地積以外の項目が複数の単一要因からなる複合的要因であること(問題2)から、一の単一要因が複数の項目にまたがって作用する場合がある。さらに、各項目の意味が状況に依存すること(問題3)である。これは、各照応項目が代表する要因は状況的に異なる可能性があること、すなわち”ある状況”で”ある項目”が意味するのはそれが包含する特定の要因であり、他の状況ではそれとは別の要因である可能性があるということである。

したがって、照応項目の重要性やその含意の重要性は、個々の事業の置かれた状況や個々の宅地を取り巻く状況に応じて判断する必要がある(下村68頁)

 

【主な引用文献(順不同)】

1 下村郁夫著「土地区画整理事業の換地制度」

平成13年7月30日初版発行(本文において「下村」という。)

2 松浦基之著「特別法コンメンタール土地区画整理法」

平成4年7月10日初版発行(本文において「松浦」という。)

3 新井克美著「登記手続における公図の沿革と境界」

昭和59年7月15日初版発行(本文において「新井」という。)

4 清水浩著「土地区画整理のための換地設計の方法」

昭和49年1月10日初版発行(本文において「清水①」という。)

5 清水浩著「土地区画整理のための換地計画の進めかた」

昭和56年5月17日初版発行 (本文において「清水②」という。)

6 土地区画整理法制研究会著「逐条解説土地区画整理法改訂版」国土交通省監修

平成18年12月10日初版発行(本文において「研究会」という。)

7 芦田修、阿部六郎、清水浩共著「土地評価と換地計画」

昭和50年6月30日初版発行(本文において「芦田等」という。)

8 渡部与四郎、相澤正昭著「土地区画整理法の解説と運用」

昭和50年3月25日初版発行(本文において「渡部」という。)

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