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〇〇〇年(〇)第〇〇号
原告 〇〇〇〇
被告 〇〇〇
〇〇地方裁判所第〇民事部御中
〇〇〇年〇月〇日
準備書面(8)
〇〇〇都道府県○○区市町村〇〇〇丁目〇番〇号
原告 〇〇〇〇
訴訟代理人弁護士〇〇〇〇
⑥ 侵害利得の側面3(留保行為正当化の援用)
被告は、予備換地や予備保留地を用意してあるわけではなく、本件に係る清算金は予め用意してある旨の主張をしている。そして、一貫としてすべて適法適正に行われてきたと説明しているのであるから、当該清算金の原資となるべき財産は当初仮換地指定時から計画的に確保していたと捉え得る。
また、浪費の事実は考え難いことから当該財産の運用益相当額の利益を享受してきたといえる。
被告は本件留保地積(注1)を公共用地又は保留地(候補地)に割り付けた。留保行為については本件のような事態に対応するために行ったと明言している(被告準備書面(〇))。そして、今後行われる換地処分においては、本件逸失差積相当の対価は換地として配分するのではなく、清算金の名目で金銭により償う旨繰り返し説明している(被告準備書面(〇))。
したがって、本件留保地積の具体化たる清算金の原資の存否について原告側の立証は不要と解する。なぜなら、原告は被告の上記主張を単に援用すればよいからである。当該原資は当初仮換地指定の際の割付作業(注2)により適法適正に生み出されたことになる。
⑦ 侵害利得のまとめ
地権者の縄延を施行者が無償で己の財産にしてしまうことや不正評価により権利地積を過小ならしめることも法の許すところではない。すなわち、本訴えにおける前主、原告の損失は法律上の原因を欠くものである。
被告は、本件従前地に受益がないにもかかわらず過剰な減歩によって相当な仮換地を付与しなかった(注1)。この結果、鎮守の森を不法占拠したり、あるいは全体としての公共用地、保留地(候補地)、仮換地の割付自由度が高まり、終局的には公共用地や保留地が増設された(注2)ことで大きな受益があったことは確かである。これらは、取りも直さず、被告の不当な侵害利得に他ならない。
なぜなら、何ら対価も払わずに地権者の土地を占拠し、公共用地や保留地候補地の管理権(処分権)を取得することは許されないからである。しかも、当該利得は現在も逐次発生しているのである。
本件従前地一部に係る既経過期間の土地使用料相当額は当然不当な侵害利得を意味する。なお、すべてが無償収用合憲主義の立場から行われたものである以上悪意(法の不知は重過失で悪意と同視)であるからその遅延利息も併せて負担しなければならない。
なお、当該土地使用料相当額は、国が不当利得の返還請求をすべきとして制度化(甲94)した「既往使用料」と同視し得るものである。この理はあくまで不法行為に基づく私法上の債権債務であり、権利者、債務者の属性により異なるものではない。そして、権利行使ができることとなったのは、本件損害賠償請求と同一時点、すなわち加害行為が不法行為を構成することをも知った時(最判昭和42年11月30日)と同じであるから〇〇〇年〇月〇日である。
また、損失補償金、損害賠償金の支払いを免れているという意味でも不当利得ありというべきである。
最後に、本件従前地に対し本来与えられるべき仮換地が過小であるから、その差に相当する土地は本件事業区域内の何処かに存在する。土地は物理的に消失するものではない。換地分合、割付作業により公共用地、保留地、他人に対する仮換地のいずれかに転化している筈であるが、その利害調整をする権限はすべて施行者に帰属する。
よって、施行者自らが受益者である場合(公共用地、保留地(処分金))のみならず、転得者(他の地権者、保留地購入者)がいる場合であっても、結果の公平性を維持、あるいはその実現を目的とする不当利得制度の適用について、公平性を図るべき立場に置かれた施行者であり原因者でもある被告が免責されるのは不相当である。
(注1)一種の所有権侵害を意味する。
(注2)象徴的には本件保留地であるが、理論的にはこれに特定されないとの見解もあり得る。なお、割付自由度の向上は留保行為の有無とは無関係である。本件仮換地が過小とされたことによって、他の仮換地地積が増した事実があったとしても、その利得は実質的には増換地であり、被告はそれらの者からの同意取得が容易となった等相応の受益があったといえる。
そして被告は自らそれらの者に対し利得償還請求するなり、今後清算金を徴収する際に利息を付したうえで不当利得償還請求権を行使すればよい(認められるかは別の問題である。)のであるから、被告はそれらの者との関係に応じて利益を受け得る(”債権の利得”(注))。
被告が説明するように、予備換地、予備保留地として用意があるわけではないとしていることと、具体的な土地での返還が現実的ではなく不可能である以上、どの土地が侵害利得分なのかを特定する必要性はないものと解される。
そこで、終局的には金銭に転化するのであるから、逸失部分の土地の体現する価値に対する返還請求権(その価値相当額に対する物権的な追求力を持った返還請求権)として観念するのが相当であろう。
さらに、事業における全責任を施行者が負うのが法の精神である以上、これらのリスク、負担を原告に転嫁すべきではない。また、実質的に公平な調整を目的とする不当利得制度の趣旨から、地権者間の公平を図るべき立場にいる施行者が免責されるのは妥当でない。
(注)不当利得返還請求権自体も利得となり得る。(最判平成3年11月19日)
⑧ 被告が本件逸失差積は他人の基準地積に配分してしまったから受益はないと反論をした場合
この主張は、すべて適法適正に行ってきたとするこれまでの主張と明らかに矛盾するものである。これが矛盾しないとすると、被告は、地権者Aの財産を地権者Bの財産とする行為が適法適正だと言っていることになり、正当視できない。
仮に、当該行為が適法適正であったとしても、他の地権者に付与した過分な基準地積や権利地積に相当する受益(注1)は不当利得として施行者自ら当該他の地権者に返還請求権を行使しうるのであるから、実質的な公平の維持を目的とする不当利得制度の適用にあたっては、当該返還請求権(注2)をもって施行者の受益と捉えれば事足りる。
(注1)施行者は、地権者間の公平を図る調整役として全従前地を取得し、照応する(仮)換地を各従前地所有者に対し処分する役割を担うとする説がある。また、清算金の徴収は不当利得の返還請求であり、清算金の交付を損失補償であるとした判例や学説がある。
これらの見解に従えば、被告には施行者として利害調整する義務があると考えられる。この理は区画整理の本質に照らせば期間的な損益調整においても当てはまる。期間的な損益調整は例えば使用収益開始時点を価格時点(工事概成時)として清算金額を時点修正することでも処理は可能である。
もっとも、被告は工事概成時を工事完了時で未到来していることから、そもそも期間的な損益調整義務の履行を放棄しているのである。
(注2)債権の取得をもって不当な受益とする場合もある(最判平成3年11月19日)。この際、当該債権に係る権利の行使不行使は受益の有無の判断とは無関係である。
要するに、既に原告は不当利得返還請求をしているのであるから、被告は直ちに返還義務を履行しなければならないのであり、清算金に反映させて返還する猶予はない。
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