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土地区画整理事業/専門家相談事例回想録‐vol.58

お客さまからご相談いただいた、ある土地区画整理事業の事件概要をご紹介します。掲載にあたっては、お客さまのご承諾をいただいております。

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〇〇〇年(〇)第〇〇号

原告 〇〇〇〇

被告 〇〇〇 

〇〇地方裁判所第〇民事部御中

〇〇〇年〇月〇日 

準備書面(9)

〇〇〇都道府県○○区市町村〇〇〇丁目〇番〇号

原告 〇〇〇〇

訴訟代理人弁護士〇〇〇〇

(2)本件土地評価基準違反

先般、判例(横浜地判平成14年4月17日(判例12))を掲げ本件土地評価基準が整理法、施行条例に根拠をおく基準であることから、これに反した評価をしたことは重大な違法である旨を説明したところである。

本件土地評価基準第1条には、「評価の適正と均衡を図る」と制定の目的、趣旨が定められており、被告はこれに従った評価を行わなければならなかった。公共事業における土地評価結果の客観性、公平性を検証するうえで最も規範となるのが規準価格と呼ばれる公示価格である(地価公示法第9条~第11条)ことは説明するまでもない。

公正価値に大きく乖離した路線価(特に整理前路線価)は、同条に掲げた「適正と均衡を図る」という制定目的、趣旨を大きく逸脱するものであることから、同条違反すなわち違法の指摘を免れない。被告は一律横並びの処理を行うことをもって「均衡を図る」の意味するところと解釈したのであろうか。否、単なる下請け一括丸投げで何ら検証すら行っていないのであるから解釈以前の問題である。

なお、個々の細目に係る違法処理の詳細はこれまで指摘してきたとおりであるが、実態無視、既存価値を無視した一律扱い等目に余るものが非常に多く、職務上必要とされる注意を漫然と怠ったことによる不注意(過失)に基づく違法行為という次元ではない。

明らかな法の無視、故意(意図的な看過、恣意的処理(注))、あるいは法の不知による重過失に基づく違法行為と認定するのが相当である。

(注)口頭弁論での主張や審議会議事録(甲61-2、3)から判断しても、施行者として最低限必要とされる遵法精神、モラルを著しく欠いていることは明らかである。

基準は後で変えれば良いと主張している点や未だに無償収用を適法だと信じ、原告の損害、損失は一切ないと断言している点からも法の不知というよりも、法の無視と言った方が的確であろう。

また、宅地見込地(特に都市計画道路〇〇線沿線付近)に対する減歩緩和を図るために、恣意的な処理を企てたことは疑う余地がない。これが、私有財産の横流し(具体的には既存住宅地が整理前に有していた価値を宅地見込地(田畑)が整理前に有していた価値として事実上付け替えることと同じ結果をもたらす(比例清算方式で恣意的に比例率を1に固定していることからそうなる。))という決してあってはならない結果に繋がることを当然認識したうえでこれを正しい処理と信じ込んでいるのであるから明らかな故意と認定すべきである。

(3)損害(損失)の根源と時効との関係について

本訴えに係る損害(損失)の根源(主因)は、3回にわたる仮換地指定処分である(注1)。仮換地指定制度は、従前地に相応(照応)する価値を有する仮換地を付与することにその存立根拠を有する。換言すれば、従前地の価値に見合った仮換地を付与せず放置するのは、憲法の財産権保障及び土地区画整理法(以下「法」という。)の理念(準備書面(7)冒頭で詳述)に反し許されないということである。

被告は当初仮換地指定からの経過期間20年をもって損害賠償請求権は時効(又は除斥期間)により消滅した旨の主張をしているが、当初の仮換地指定が〇〇年に取り消され、再度、従前地に見合わない仮換地指定が行われたことから被告の主張に理由がないことは明らかである。

もっとも、被告の主張に理由がないのはその一事のみではない。

法の理念に照らせば、施行者は換地処分、清算金及び減価補償金をもって、最終的な完全なる補償を行い、全責任を果たすべきことが義務づけられているものと解される。

この理は損害(損失)の原因が違法によるものか適法によるものかにより異なるところはない。換言すれば、違法原因による損害は、地権者(被害者)が別途訴訟提起により法の枠外で救済を求めるべきとする趣旨ではない。

換地、清算金及び減価補償金により完全なる補償(賠償)を果たし得ない蓋然性が高い(注2)と判断される場合においては、早期に仮清算を行うか、あるいは期間的な使用収益に係る逸失利益に対して損失補償を行う必要がある。

この判断は、いわば施行者の当然の責務として事業の進捗状況を勘案しながら適宜適切に下されることが法の要請するところである。この点、被告は換地計画が無いから不明だと主張しているが、換地計画の有無とこの判断の必要性とは無関係である。施行者は絶えず地権者に損害(損失)を与えないよう配慮する(最判昭和46年11月30日(判例30))ことが法の理念であることを肝に銘じなければならない。

よって、換地処分を待たずして、施行者が地権者に与えた損害に対して時効消滅(除斥期間)を主張するが如き責任放棄は法の予定しないものであり、被告の言動は法の理念に反すること甚だしく、信義則、条理に反し許されないというべきである。ましてや、事業遅延、長期化の原因者たる施行者が当該長期化による利益(注3)を享受するが如き救済措置を認めることは、地権者に対する背信行為を助長するのと同義であり、公平性を害するものである。

(注1)本件従前地の一部が他者の仮換地に指定されていることも結果的には違法であるが、これが単独で違法となり、損害(損失)をもたらすものではない。なぜなら、適正な仮換地は唯一特定のものに限定して解されるべきではないからである。つまり、前主に対し、本件従前地に見合った適正な仮換地指定がなされていれば、本件従前地の一部が他者の仮換地とされても即違法となるわけではなく、あくまで前主に対する仮換地指定が本件従前地に見合ったものではないにもかかわらず、本件従前地の一部が他者の仮換地となっているから違法なのである。

なお、訴状における想定仮換地は、損害額(損失額)等を算出するために設定したものであり、適正な仮換地がこれに限られる趣旨ではない。また、本件従前地の一部に係る使用収益停止をもって、違法行為による損害(損失)であると論じた箇所については、あくまで損害額(損失額)等の算出根拠を明確にし、被告の違法行為と損害額(損失額)との相当因果関係を明らかにするための表現であることに留意されたい。

したがって、本訴えに係る損害(損失)の根源は、あくまで本件従前地に見合った仮換地を付与することなく行われた計3回の違法な仮換地指定処分であり、その違法性を治癒せず放置した違法な不作為である。そして、本件事業が終了するまでの間、当該違法性を治癒すべき施行者の義務は逐次生じているのであり、当該義務の時効消滅はあり得ない。絶えず違法行為が繰り返し行われているもの解すべきである。

(注2)本件においては、価格時点(工事概成時)を今から20年以上遡って設定し、かつ時点修正して清算しなければ原告の損害(損失)を完全に償うことはできない。そして、被告が工事概成時を20年以上前の過去時点に設定する予定がないことはその言動から明らかである。よって、換地計画がない(工事概成時は未定)との抗弁をもって時効が徒に進行するのは公平ではなく、施行者自ら仮清算や損失補償の要否を適切に判断し、原告に損害(損失)を与えないよう配慮することが求められるのである。

(注3)時効主張に必要不可欠な時の経過は本件事業の長期化によるものであり、長期化の責任はすべて施行者である被告に存する。早期に換地計画が作成され、換地処分、清算等が予定どおり行われて事業が終了することは、早期にすべてが明るみとなることを意味し、地権者は早期に違法主張等の法的措置がとれることに繋がる。その場合、被告は、古い事だから詳細不明との抗弁はなしえない筈である。したがって、事業長期化に伴う期間の経過を隠れ蓑に時効主張するのは明らかに権利の濫用、かつ信義則、条理違反である。

換言すれば、被告は“仮換地は工事のため”、“換地計画は未作成”との抗弁(口癖)を時効(除斥期間)完成の主張が行えるほどの長期にわたり続けてきたということである。

また、“仮換地は工事のため”、“換地計画は未作成”との抗弁により、地権者への詳細な説明義務を回避し、換地計画がないから何が損害か不明と主張し続けることにより、地権者の法的措置の先送りを謀ってきたのであるから、自らの怠慢に起因する長期化に伴う期間の経過を悪用した時効主張を許してはならない。

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