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土地区画整理事業/専門家相談事例回想録‐vol.68

お客さまからご相談いただいた、ある土地区画整理事業の事件概要をご紹介します。掲載にあたっては、お客さまのご承諾をいただいております。

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〇〇〇年(〇)第〇〇〇〇号 損害賠償請求控訴事件

控訴人  〇〇〇〇

被控訴人 〇〇〇 

準備書面(1)

〇〇〇年〇月〇日 

〇〇高等裁判所 御中

〇〇〇都道府県○○区市町村〇〇〇丁目〇番〇号

控訴人 〇〇〇〇

訴訟代理人弁護士〇〇〇〇

 

2 争点(2)及び争点(3)について(原判決書31頁)

いずれも本件処分の適法性を前提とするものであるから当然に失当である。

3 争点(4)について(原判決書31~32頁)

(1)原判決32頁5行目から6行目にかけての「土地区画整理事業により宅地の利用価値の増加が見込まれることに照らせば、」から17行目「損失補償が必要とも解されない。」までの部分について

① 一体どのような価値判断をしたらこのような結論に至るのか皆目見当がつかない。

これでは、旧基準地積に基づく従前地と現基準地積に基づく従前地が等価だと言っているに等しい。

換言すれば、両基準地積の差(562.88㎡)に係る経済価値はゼロだと判定しているのと何ら変わりがないのである。あまりにも常軌を逸した価値観には言葉もない。

また、原告を除く期限後更正申請者に対しては、すべて増(仮)換地修正で対応している事実とも整合性を欠く。縄延地積の経済価値がゼロならなぜ増換地修正する必要があるのか説明がつくまい。考えるまでもなく損失が生じることが明らかだから増換地したのであろうが。

② ここは、被告が被告準備書面(5)5頁から6頁にかけて3つの判例を引用して主張した内容をそのまま要約したものと考えられるが、これらの事案はすべて本件とはその前提事実、諸事情を異にするものであり、本件には適用できない。

以下、具体的に各判例の概要を述べる。

まず、昭和56年3月19日最判は、事業施行前の宅地の価額と施行後の宅地の価額との交換価値の増減にかかわりなく、換地処分時の課税評価額による単価に減歩地積を乗じて、減歩自体の補償を求めたものである。

次に、昭和40年12月20日名古屋高判は、従前宅地の一部が道路敷とされたことに対し、土地収用法に基づく補償を求めたものである。

最後に、昭和58年12月16日長崎地判は、従前土地の価額と換地の価額を比較することなく、減歩地積は土地収用の場合と同様に時価(取引価格)により補償されるべきとして清算金額につき争われたものである。

これらの判例に共通する趣旨は、従前従後の価額を比較せずに、減歩自体の補償を求めることは相当ではないとするものであり、原告もその趣旨に異を唱えてはいない。

③ 適正な基準地積及び適正な評価に基づく適正な減歩並びに適正な仮換地、換言すれば、適正な基準地積を採用した上で土地評価基準及びその理念を遵守することにより算定された適正な受益と換地設計基準遵守による適正な減歩並びに照応した仮換地であれば、特段の事情がない限り、損害、損失、補償云々を論じる余地はない。

議論を簡明化するために、百歩譲って仮換地指定に至るまでに被告が行った手続きに一切の違法性、不当性がないと仮定しても、それは旧公簿地積を基礎として算出された旧基準地積1,383.23㎡(甲12)に基づく旧減歩地積(138.23㎡(1,383.23㎡(旧基準地積)-1,245㎡(仮換地地積))(甲12、56-2))以下「旧減歩地積」という。)が適正であったことを疎明するに過ぎない。

ところで、減歩とは一般的に地積減を指すが、本件においては、現実の減歩地積(701.11㎡(1,946.11㎡(現基準地積)-1,245㎡(仮換地地積))(甲3、14、56-2)のうち旧減歩地積を控除した残余の減歩地積(562.88㎡(701.11㎡-138.23㎡)以下「残余の減歩地積」という。)は区別して取り扱わなくてはならない。

なぜなら、本件における最重要論点たる損害(損失)の有無、補償等の要否を論じるには、従前従後の財産価値の判定が不可欠だからである。これは、上記各判例の趣旨からも明らかである。にもかかわらず、原判決では、これを区別せずに減歩として一纏めにすることで、従前従後の財産価値の判定から目を背け、その比較を一切行っていないのであるから、審理不尽の不当判決といわねばならない。

④ 被告の適正評価を仮定した従前従後の財産価値の乖離は被告自ら示した清算指数(甲14)に顕著である。

また、土地評価基準を離れた客観的な財産価値は、訴状添付別表中「本件逸失差積」に残余の減歩地積」を代入することでその概算額が求められる。

⑤ したがって、上記各判例の趣旨が本件に妥当するとすれば、原判決の当該部分の記述は、「土地区画整理事業により宅地の利用価値の増加が見込まれることに照らせば、“旧減歩(138.23㎡)については直ちにその減歩分の土地の価額に相当する損失が生ずるとはいえず、同様に、当該減歩分の使用収益相当額の損失が生ずるともいえない。 ・・・ 損失補償が必要とも解されない。」と訂正され、残余の減歩地積(562.88㎡)に係る記載が欠落し、論点漏れとなる。

換言すれば、各判例の趣旨が本件に妥当するとすれば、それは旧減歩地積(138.23㎡)についてのみである。残余の減歩地積(562.88㎡)に係る減歩については、均衡する(仮)換地が付与されない以上、事業による利用価値の増加を観念する基礎を欠くことから、本件に妥当しないことは明らかである。原判決は旧減歩と残余の減歩を意図的に一緒くたにすることで、経済価値の実態を無視しているのである。

⑥ ここに、〇裁判所における平成21年6月18日判決(平成20年(行コ)第295号)の一部を掲げる。

「本件事業における清算は従前地の評価相当分を確保した上での換地相互間の不均衡の是正を目的とするものであり、・・・」

上記「従前地の評価相当分」とは、本件では実測に基づく従前地の土地評価額を指すものであるが、これと均衡する仮換地指定がなされていないことは、原審において十分説明済みであり、争いもない。被告は、差積相当は清算金により対応する旨主張しているが、清算金はその目的を異にするものであることは貴裁判所の示すとおりである(注)とともに、施行条例には差積に係る期間損失の補償規定がなく、被告の説明も論理性を欠くことから本訴えがなされたのである。

(注)前掲長崎地判S58.12.16においても、換地不指定の場合は、照応原則が適用される余地はなく、その場合の清算金は実質的には損失補償としての性格を有することになるとしている。

⑦ 争点(4)は、簡潔に言えば、仮に適正な評価等に基づく適正な仮換地指定がなされたとした場合であっても、実測に基づく現実の従前地地積のうち基準地積に含まれなかった部分に対しては事実上仮換地が付与されていないのであるから、その使用収益に係る経済価値の期間損失を土地区画整理法及び関連法規を中心とした現行の法体系の中でどのように取り扱うべきかということである。

この点、原判決は、上記論点に踏み込むことを回避し、具体的な損失額の認定すら怠るというもので手抜き判決の誹りを免れない。損失がゼロというならば、具体的な計算式を示したうえでその根拠を示すべきである。

原判決は、被告が自治体であることから勝たせなければならないが、論理的な説明がつかないため、まったく事情の異なる判例の引用による非論理的な被告の言い分を、何ら斟酌することなく漫然と転記し、強引に結論づけたものと邪推せざるを得ない。論理性、客観性、説得性のいずれもが欠落した違法不当判決であり、破棄されるべきである。 

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